Munechika Lab.

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研究内容紹介

はじめに

棟近研究室では,製品の質を高め,より魅力的な製品を生み出すために,感性品質の研究を行っています.

感性品質とは,人間が抱くイメージやフィーリングによって評価される品質であり,自動車で言えば“乗り心地がよい”や,“スタイルがよい”などの言葉で表現されるという特徴を持っています.

身近な例だと,コンビニにビールや缶コーヒーを買いに行ったとき,パッケージのデザインから,味や風味,高級感などを感じて商品を選んだ経験はありませんか?パッケージから連想されるこれらのイメージは,まさに感性によって評価されています.

これまで,製品の品質は,機能性や安全性,信頼性といった面を高めることが課題となってきました.しかし,こうした品質が安定し,企業間の製品に差がなくなってくると,個人の感性にあった製品を企画,設計することがヒット商品を生む鍵になります.

研究紹介


ビールの缶

棟近研究室では企業と共同研究を行い,実際の製品に感性工学の手法を適用させながら研究を進めています. その中でも,まず,皆さんの身近にある製品の事例として,アサヒビールの『うまくち缶』についてご紹介します.

下の図をよく見てください.何が違うか気づきましたか?

                                 資料提供:アサヒビール

実は,左側が従来使用されていたビール缶で,右側が感性工学を導入して作成されたビール缶です.左側と右側で飲み口の大きさが異なっているのに気づきましたか?

右側のサンプルの方が,飲み口が大きくなっていて,飲みやすく,注ぎやすくなっています.現在販売されているアサヒビールのビール缶はすべて右側の形が採用されています.こんな身近なところに感性工学の手法が取り入れられているなんて,意外ですよね.

【関連文献】
[1] 田中正和,棟近雅彦(2000):“飲料缶に関する感性品質の評価方法”,「日本品質管理学会第64回研究発表要旨集」,pp.69-72
[2] 田中正和,棟近雅彦(2001):“感性品質を考慮した設計のための評価構造モデル探索方法に関する研究”,「日本品質管理学会第31回年次大会研究発表要旨集」,pp.101-104


パッケージデザイン

店頭では,“高級感のあるパッケージデザイン”や“かわいいパッケージデザイン”など,様々なパッケージの商品が並んでいるのを目にするかと思います.
デザインは,商品の第一印象となり,消費者が購買を決定する際の一つの要素であるといえます.そのため,パッケージデザインでは,消費者に商品の中身をより魅力的に感じさせることが重要になってきます.

 そこで,棟近研究室では,消費者が“高級感”や“かわいい”,“本格的”と感じるパッケージデザインとは,どのようなパッケージデザインであるのかを把握するという研究を行っています.
消費者のイメージをあらかじめ把握し,それをデザイナーに提示することで,消費者のイメージを反映した,より魅力的なパッケージデザインができます.

【関連文献】
[1] 福島瑠依子,棟近雅彦(2006):“感性品質を考慮したパッケージデザイン設計に関する研究”,「日本品質管理学会第80回研究発表要旨集」,pp.31-34
[2] 高蕾,棟近雅彦,金子雅明(2007):“感性品質を反映したパッケージデザイン設計に関する研究”,「日本品質管理学会第83回研究発表要旨集」,pp.215-218
[3] 空花弘道,棟近雅彦,金子雅明(2007):“感性品質を考慮したパッケージデザインの図柄に関する研究”,「日本品質管理学会第83回研究発表要旨集」,pp.219-222
[4] 牛島幸子,棟近雅彦,金子雅明(2008):“パッケージデザインにおける物理特性抽出に関する研究”,「日本品質管理学会第38回年次大会研究発表要旨集」,pp.133-136
[5] 小川大輔,棟近雅彦,金子雅明(2009):“パッケージデザイン評価における評価用語セットの導出方法に関する研究”,「日本品質管理学会第89回年次大会研究発表要旨集」,pp.45-48
[6] 中太彩子,棟近雅彦,金子雅明,佐藤常雄(2009):“消費者の見方を考慮したパッケージデザイン設計に関する研究”,「日本品質管理学会第89回年次大会研究発表要旨集」,pp.49-52


インクジェット複合機

インクジェット複合機は,プリント機能や印刷速度といった機能性だけでなく,「使い心地」といった感性品質も重要な要素になってきます.

複合機を買おうと店頭に見に行った際,なんとなくボタンを押してみたり,カバーを開いてみたりして「使い心地」を確かめた経験があるかと思います. 複合機を購入したことがない人でも,例えば携帯電話を購入するとき,店頭に並ぶ機種を色々試しに操作してから購入を決めたことがあるのではないでしょうか?
人はこうして何気なく操作している間に,製品が気持ちよく操作できるか,壊れにくいように設計されているかといったことを頭の中で評価しているのです.

 棟近研究室では,よく操作されるボタンやカバーに対して,押し心地や開け心地がどう評価されているのかを研究しています. これまでの研究の結果,若い人より年配の人の方が,柔らかいボタンを好むということがわかってきました.
どんな人がよく使うかを考えることで,設計の仕方や素材選びも変わってきますよね.

【関連文献】
[1] 加川洋平,棟近雅彦,金子雅明(2009):“店頭におけるインクジェット複合機の使い心地に関する研究”,「日本品質管理学会第89回年次大会研究発表要旨集」,pp.41-44


ボールペン

私たちの身の回りには,様々な種類のボールペンが存在します.
何十種類もの色のバリエーションがあるボールペン,摩擦による温度変化により消すことができるボールペン,人間工学の技術を取り入れた変形型のボールペンなど,ユニークなボールペンが数多く存在し,私たちはどれを買えばよいか迷ってしまいます.

このように,製品の機能が成熟化している製品に関しては,他製品とは異なった機能の追加や感性に訴えかけるような品質の提供がとても重要になります.
そこで私たちの研究室では,感性工学という視点で,どのようなボールペンが書き心地がよいのか,筆跡がきれいに見えるのか等,感性に訴えかけるボールペンの研究を行っています.

書き手が,どのようなボールペンを求めているのか調査し,統計的手法を用いて,その要求を明らかにします.また,同じ要求でも,人によって,その意味は異なります.
そこで,個人差を考慮したセグメンテーションを行い,それぞれのセグメントに求められる感性品質を明らかにしています.例えば,油性ボールペンを好む人もいれば,ゲルボールペンを好む人もいるでしょう.
また,授業でノートをとる際には,どんな感性品質が求められるのか,書類を書く際には,どんな感性品質が求められるのかという,使用状況を考慮した感性品質の研究も行なっています.

たかがボールペンと思いきや,その裏ではこのような取り組みが行なわれているのです.

【関連文献】
[1] 子安沙央里,棟近雅彦(2006):“感性品質を反映したボールペンの設計に関する研究”,「日本品質管理学会第80回研究発表要旨集」,pp.35-38
[2] 子安沙央里,棟近雅彦,金子雅明(2007),“商品企画のための顧客要求調査に関する研究”,「日本品質管理学会第37回年次大会研究発表要旨集」,pp.185-188
[3] 西中萌,棟近雅彦,金子雅明(2008),“消費者の購買プロセスの分析手法に関する研究”,「日本品質管理学会第38回年次大会研究発表要旨集」,pp.121-124


衣服

私たちは,店舗で衣服を選ぶとき,衣服のデザイン,色,サイズ,着心地,価格など,様々な部分を考慮しています.中でもデザインや着心地に関しては,実際に試着をした感触を下に,イメージやフィーリングで評価していると思います.
その評価は,性別や年代といった評価者の属性によっても異なりますし,同じ特徴をもつ評価者層でも個人の嗜好や体型などによって変わってきます.
今までに棟近研究室では,ジャケットやジーンズなどを用いて,いろいろな評価者層に対して研究を行ってきました.

研究では,調査対象とするサンプルの検討,評価者への採寸,アンケート調査やインタビュー調査の実施などを経て,分析を行います.その結果から,衣服にはどういった感性品質が求められるのか,どのように寸法を決めれば「着心地がよい」などと思われるのか,分析結果をどのように衣服作成に生かすべきか,といったことを研究しています.
その他,アパレル関連として,接客や品揃えについての研究も行われています.

【関連文献】
[1] 大和田学,棟近雅彦(2003):“感性品質を考慮した衣服設計に関する研究”,「日本品質管理学会第71回研究発表要旨集」,pp.157-160
[2] 金惺潤,棟近雅彦(2002):“デパートにおける商品量決定に関する研究”,「日本品質管理学会第32回年次大会研究発表要旨集」,pp.45-48
[3] 松島七衣,棟近雅彦,金子雅明(2009):“感性品質を考慮した衣服サイズに関する研究”,「日本品質管理学会第39回年次大会研究発表要旨集」,pp.39-42

手法の紹介


評価用語の抽出と選定―Semantic Differentials法(SD法)

棟近研究室では,消費者がどのようにイメージやフィーリングを感じているかを把握するために,感性品質に関わる「評価用語」を集め, SD(Semantic Differentials)法を用いて消費者の評価を測定します.

SD法は,「良い―悪い」などの形容詞を対に並べて5段階の評価尺度を与え,製品が人間に感じさせる意味を測定する方法です. ボールペンを例にすると,被験者にボールペンで試し書きしてもらい,書き心地のよさは4点,インクの出は3点・・・というように評価を行ってもらうことで,測定を行います.


                                              ボールペンの評価(SD法)の例
認知・知覚モデル

人間が感性評価を行うとき,何らかの心理的な評価モデルに従っていると考えられます. そこで,棟近研究室の研究では,人がある刺激を受けてから何らかの行動を起こすまでを示した「認知・知覚モデル」を仮定します. 認知・知覚モデルは,「刺激」,「知覚」,「認知」,「記憶との照合」,「情緒的反応」,「行動」という過程を表しています.

また,感性品質の調査に用いる評価用語は,認知・知覚モデルの4つの過程とそれぞれ対応させて,「単感覚」,「複合感覚」,「心理的反応」,「総合感性」の4つの階層に分類しています.

【関連文献】
[1] 半田昌史,棟近雅彦(1996):“感性品質の調査に用いる評価用語抽出に関する研究”,「日本品質管理学会第26回年次大会研究発表要旨集」,p.99-p.102
[2] 棟近雅彦,三輪高志(2000):“感性品質の調査に用いる評価用語選定の指針”,「品質」,Vol.30,No.4,pp.96-108


感性評価構造

感性評価構造とは,評価者の視点から評価用語間の関係性を可視化する手法です.

そのために,グラフィカルモデリングなどを適用し,評価用語間の因果関係に着目して構造図を作成します.認知知覚モデルの4階層に感性評価構造を当てはめることにより,4階層で評価用語の構造把握や分類をすることができます.
ペンを事例として,作成した感性評価構造が以下の図です.


                  書き心地に関する感性評価構造

例えば「書き心地がよい」と「文字が好き」の相関関係があることがわかります.
したがって,「書き心地がよいので,きれいに書けた文字が好き」など,書き心地の評価が文字の評価に影響していると分析できます.

【関連文献】
[1] 棟近雅彦,三輪高志(2000):“感性品質の調査に用いる評価用語選定の指針”,「品質」,Vol.30,No.4,pp.96-108
[2] 宮川雅巳他(1996):“多変量解析におけるグラフィカルモデリング”,「日本品質管理学会第60回シンポジウム講演要旨集」
[3] 宮川正巳(1997),「グラフィカルモデリング」,朝倉書店
[4] 永田靖(1999),「グラフィカルモデリングの実際」,日科技連


個人差

感性工学における分析では,評価する人によって評価のパターンが異なるケースが多く存在します.
そこで,分析を行う上で把握するべき個人差を次のように分類・定義しています.

1) 嗜好の個人差:どの対象を好む,あるいは好まないかという総合的な評価の評価者による違いを表す個人差
2) 弁別の個人差:各項目について各対象を弁別する際の,弁別結果の評価者による違いを表す個人差
3) 項目の個人差:総合評価を下すのに,どの項目を重視するのか,項目がどのような値のときによい評価をするかを表す個人差,すなわち“総合感性と各項目との関係の個人差”
4) 属性の個人差:年齢,性別等の比較的客観的に判断し得る違いを表す個人差

層別を行う際は,4)を用いるのが一般的です.それに対して棟近研究室では,1)〜3)も考慮して,層別を行っているのが特徴です.

【関連文献】
[1] 羽生田和志,棟近雅彦(1996):“個人差を考慮した感性品質の評価方法に関する研究”,「日本品質管理学会第26回年次大会研究発表要旨集」,pp.95-98
[2] 永田靖,棟近雅彦(2006):「多変量解析法入門」,サイエンス社
[3] 棟近雅彦,野沢昌弘(2007):「JUSE-StatWorksによる多変量解析入門」,日科技連出版社