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研究内容紹介

医療事故防止に関する研究


プロセス指向を実践するための事故分析手法「POAM」

与薬業務は,注射薬や内服薬を患者に投与する業務であり,決まった手順に従って行なわれています.与薬事故を防ぐためには,仕事のやり方に着目して手順を改善すること(プロセス指向)が効果的です.

本研究室では,医療従事者がプロセス指向を実践するための事故分析手法としてPOAM(Process Oriented Analysis Method for Medical Incidents)を開発しました. POAMは,事故状況を把握するために,与薬業務を「情報を受け取り,モノを取り,作業を行う」とした“与薬業務モデル”(以下の図がモデル図の例です)と,事故を誘発した要因を抽出する“観点リスト”を活用します.

                                                                モデル図の例

本研究室では,病院の方々にPOAMを広めるために講習会を開いています.そこで,グループワーク活動を設け,POAMの実践の機会を提供しています.実際に,提案したPOAMを事故に適用したところ,医療従事者はプロセス指向を実践でき,与薬事故を低減できました.

【関連文献】
[1] 佐野雅隆,棟近雅彦,金子雅明(2009):“業務プロセスに着目した与薬事故分析手法の提案”,品質,39,[2],98-106


作業要素,エラーモード,エラー要因を用いた分析手法

医療事故を低減させるためには,(1)どのような作業をしているときに,(2)どのような事故が,(3)どのような要因で発生したのかを把握し,事故が多く発生している作業を重点的に改善していく必要があります.このような分析を行うために,本研究室では,次のようなことを検討しています.

まず,(1)の事故が発生している作業箇所の特定に向けて,与薬業務を,「看護師が医師の指示を確認する」,「必要なものを準備する」といった作業要素を用いて記述する方法を考えました.次に,(2)の事故の内容を把握するため,与薬業務の作業ミスを11個のエラーモードとして抽出しました.最後に,(3)の要因分析のために,ミスを誘発した要因をエラー要因として整理しました.そして,これらを用いた効果的な分析方法をいくつか提案しました.

導出した作業要素,エラーモード,エラー要因は一般化されているため,様々な病院の事故分析に適用することが可能です.そのため,病院間の作業方法や事故件数の比較を容易に行えるようになりました.

【関連文献】
[1] 尾崎郁雄,棟近雅彦(2005):“エラープルーフを活用した与薬事故低減に関する研究”,病院管理,42,[3],121-133
[2] 陳如,棟近雅彦,金子雅明,福村文雄(2009):“与薬事故低減のためのエラープルーフ化対策立案方法に関する研究”,「日本品質管理学会第39回年次大会研究発表要旨集」,pp.191-194
[3] 佐野雅隆,棟近雅彦,金子雅明(2010):“作業要素を用いた業務の記述方法に基づく与薬事故の傾向分析手法の提案”,品質,40,[2],45-54


情報伝達エラーの分析手法

病院では,医師や看護師をはじめ,複数の職種が連携をとりながら業務を実施しています.そのため,的確な情報伝達が不可欠です.患者状態や日々の現場環境の変化に伴い,必要な情報は異なり,それらの変動に対応していくことも求められます.さらに,24時間継続した医療を提供するために,交代勤務で業務を遂行していることも,情報伝達を難しくする要因となっています.したがって,安全な医療の提供に向けた適切な情報伝達方法を確立するための手法が必要です.

本研究室では,医療業務の情報伝達方法を可視化し,情報伝達ミスが発生するメカニズムを明らかにしようとしています.さらに,情報伝達ミスを低減するため,病院で発生した情報伝達ミスを収集・分析し,適切な情報伝達方法の設計に取り組んでいます.

【関連文献】
[1] 星野元宏,棟近雅彦,金子雅明(2007):“病院における情報伝達設計に関する研究”,「日本品質管理学会第37回年次大会研究発表要旨集」,pp.57-60


患者間違い事故の分析手法

患者間違い事故は,今なお病院で慢性的に発生している事故です.病院では,患者間違い事故を防止するために,様々な防止策を講じていますが,効果的な解決策となっていないのが現状です.本研究室では,IDというものに着目し,患者間違い事故の要因について分析を試みました.IDとは,患者を識別するために用いられる情報のことを指します.例えば,氏名や保険証番号,生年月日などが病院で用いられているIDと言うことができます.病院では,これらのIDを用いて患者確認を行っています. しかし,患者を正しく同定できないため,事故が発生する場合が少なくありません.また,IDに着目した分析手法が存在しないため,事故の問題点を把握できず,事故低減につながっていないのが現状です.

そこで本研究室では,作業方法とIDの問題点を抽出し,患者間違い事故を分析するための手法について研究を行っています.そして,患者間違い事故を防ぐための対策について研究を進めています.


標準不遵守による事故の分析手法

決められた作業方法を守らずに事故が発生することがあります.標準に対する知識・技能は十分にもかかわらず,遵守しないために発生しています.従来,これらの事故は作業者の動機付けの問題と考えられてきました. しかし,標準が作業者にとって遵守しにくいという問題も同時に存在します.それらの事故を防止するために,作業者の動機付けだけでなく,標準を遵守しやすく改善する必要があります.

本研究室では,作業の不遵守が発生するメカニズムを明確にし,不遵守の分析方法を考えています.さらに,標準不遵守の改善方法の研究に取り組んでいます.

【関連文献】
[1] 高山陽平,棟近雅彦,金子雅明(2008):“規則違反に起因する医療事故の分析手法に関する研究”,「日本品質管理学会第38回年次大会研究発表要旨集」,pp.77-80
[2] 中太彩子,高山陽平,棟近雅彦,金子雅明(2009):“標準作業方法の不遵守に起因する医療事故の対策立案方法に関する研究”,「医療の質・安全学会第4回学術集会抄録集」,pp.126


転倒転落事故の防止に関する研究

今まで説明してきた分析手法は,決まった手順に従って業務を実施しているときに発生した事故が対象です.しかし,病院では,そのような事故だけでなく,転倒転落事故やチューブの抜去事故といった患者要因によって発生している事故も少なくありません.その中でも,転倒転落事故は病院内で多発している事故であり,外傷・骨折など患者の負担を増大させる原因となっています. 病院では事故低減に向けて様々な取り組みを行っていますが,転倒転落事故は症状や年齢といった患者要因により発生することが多いため,決定的な対策の方法論は存在しません.

転倒転落事故を防止するためには,患者の転倒する危険度を的確にアセスメントし,その結果に応じて看護計画を立案する必要があります.本研究室では,転倒転落事故の防止に向けて,(1)アセスメントシートの改善,(2)転倒看護計画の作成,(3)転倒転落事故分析手法の提案,といった研究を行ってきました. (1)は,数量化U類を用いて,事故を起こす危険性を高める要因を抽出し,その項目を用いてアセスメントシートを作成しました.(2)は,事故報告書をもとに,転倒転落事故が発生しやすい歩行,車椅子,ベッド,排泄時の4つの場面の標準看護計画表を作成し,チェックをするだけで,看護計画を立案できるようにしました.

(1)と(2)の提案により,患者のアセスメントと看護計画立案は容易となり,共同研究先の転倒転落事故は減少しました.現在は,(3)の事故分析手法の開発に取り組んでいます.発生した転倒転落事故の要因をさらに詳細に把握し,よりよい対策を提案することを目指しています.

【関連文献】
[1] 藁科えりか,棟近雅彦,高橋高美,井上文江(2005):“転倒・転落事故低減に関する研究”,「医療マネジメント学会雑誌集」,4-1,pp.145
[2] 志田雅貴,棟近雅彦(2006):“病院における転倒転落事故防止に関する研究”,「日本品質管理学会第36回年次大会研究発表要旨集」,pp.123-126