医療における地域災害レジリエンスマネジメントシステムモデルの開発


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研究の内容

地域社会の安全性

 地震をはじめとする自然災害の発生確率が高い我が国においては、様々な事業の継続性を確保するために、さまざまな対策を講じておくことが課題となっています。特に、社会インフラである医療が機能しなくなると、多くの社会活動に大きな影響を与え、社会が機能不全に陥ってしまうことは、2011年の東日本大震災での経験から明らかです。災害が発生しても医療を継続可能にすることは、医療機関だけでなく、地域の安全・安心な社会を作る責務を持つ自治体にとっても不可欠になっています。
 災害時における医療の継続性を確保するには、医療の地域レジリエンスを高めることが重要です。そのためには、地域レジリエンスを高めるための方法論と地域レジリエンスの評価指標、評価方法が必要になります。
 レジリエンスを高める方策としては、BCP、BCMS(※用語解説参照)を運用することなどがあります。BCPに関しては多くのガイドラインが存在します。BCMSに関しては国際規格であるISO 22301が発行されるなど、いくつかの策定指針が提案されています。これらは、単一の企業などが事業継続性を高めるための方法論として、有効なものと考えられます。

東日本大震災の光景(出典:財団法人 消防科学総合センター)

用語解説

    BCP(Business Countinuity Plan):

    事業継続マネジメントの国際規格であるISO22301では、事業継続計画(Business Countinuity Plan:BCP)は「事業の中断・阻害に対応し、事業を復旧し、再開し、あらかじめ定められたレベルに回復するように組織を導く文書化した手順」と定義される。災害や事故で被害にあってもできるだけ事業が滞ることがないように、事前の対策を含め、被災した時の対応策を記載した計画書のこと。

    BCMS(Business Continuity Management System):

    BCPを一度策定しただけでは、それが完璧であるという保証はない。社会の経済環境、事業環境、自然災害発生の確率等は、時間とともに変化していくものであり、それに合わせてBCPを改善していく必要がある。そのためのマネジメントシステムがBCMS(Business Countinuity Management System)である。


災害医療の難しさ

 一方、災害時における医療には、一般的な企業にはない下記の特徴があります。
 まず、入院診療や外来診療のような通常業務(通常医療)の継続はもちろん災害医療(緊急医療、慢性疾患患者に対する災害時の支援、救護所などでの医療)の立ち上げ、運用、管理も対象とする必要があります。これらふたつの業務のバランスをとりながら、両方の医療を効果的に実施しなければなりません。
 次に、災害医療業務は、時々刻々とニーズが変化し、かつ緊急性が高い業務です。一般的な企業は、災害後に通常状態にどれだけ早く戻れるかということが重要となりますが、医療の場合は、災害発生後に、被災者の救助と既存患者への継続的な診療が提供できるかが価値となります。すなわち通常業務と災害医療業務のバランスを図ることで、刻一刻と変化する医療ニーズにいかに対応していくかということを検討しなくてはなりません。これを実現するためには、対象地域における医療に関係する組織・団体間で、経営資源を効果的に配分するなどの連携、協力、調整が不可欠です。このような活動を体系的に行うためには、マネジメントシステムの構築が不可欠です。しかし、既存のBCP、BCMSのモデルは、このような医療の特徴に対応していません。さらにこれまでのBCP、BCMSのモデルは組織の事業継続性を高めることが目標の場合が多く、医療の地域レジリエンス向上を明示した例は見られませんでした。したがって、医療の地域レジリエンス向上のためにこれまでのBCP、BCMSモデルとは異なり、地域の複数組織のネットワークによるマネジメントシステムが必要になると考えます。
 これが本プロジェクトで呼ぶ「ADRMS-H」です。


評価指標の確立

 また、地域レジリエンスを向上するためには、レジリエンスを計測でき、また、評価指標、評価方法も必要です。従来研究において、いくつかのレジリエンスの測定モデルが提案されています。しかし、それらはITインフラ、建物の耐震性、サプライチェーンといった本プロジェクトでいうADRMS-H内の各組織の経営要素に着目した評価です。あるいは、地域防災計画の有無、訓練の継続的な実施状況といったADRMS-Hそのものの要素に着目した評価にとどまっています。つまり、ADRMS-Hを構成する個別の要素の一部に焦点を置き、その評価指標を導出している研究は存在しますが、ADRMS-Hが達成したい最終パフォーマンスの評価指標、評価方法は確立されていません。
 ここで最終パフォーマンスとは、一般には被災時の業務能力の低下の程度と復旧時間の早さを意味します。最終パフォーマンスを評価するためには、 ADRMS-Hによって達成すべき最終パフォーマンスを定義し、それを何らかの形で指標化する必要があります。また、各要素と最終パフォーマンスの関係性を明らかにし、各要素への対策による最終パフォーマンスへの効果、有効性を評価するための方法論も不可欠です。現在、最終パフォーマンスを考慮したレジリエンスの評価モデルは未確立です。


まとめ

 以上のことから、本プロジェクトで解決すべき課題は、次の二つです。

    課題(1) ADRMS-Hモデルの構築
    課題(2) 地域レジリエンスを評価し、改善していくための評価モデルの開発

 上記ふたつの課題を解決し、地域防災・災害対応のためのADRMS-Hの構築例を示すことができれば、地域での災害時における医療の継続性を高めることを可能にし、我が国の産業の事業継続性向上にも大きく貢献すると考えられます。


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