医療における地域災害レジリエンスマネジメントシステムモデルの開発


科学技術振興機構における『戦略的創造研究推進事業研究開発プロジェクト』
未来の子どもたちのために安心安全な社会をつくりたい

マネジメントシステムで災害に強い地域をつくる

早稲田大学 創造理工学部経営システム工学科・創造理工学研究科経営デザイン専攻
教授 棟近 雅彦 (MUNECHIKA Masahiko)

―――科学技術振興機構の『戦略的創造研究推進事業平成26年度新規プロジェクト』の採択、おめでとうございます。

棟近先生(以下棟近)ありがとうございます。


写真1:早稲田大学創造理工学部 経営システム工学科・創造理工学研究科経営デザイン専攻 棟近 雅彦 先生

レジリエンスの意味

―――本日は研究についてのお話を伺います。
研究プロジェクトのタイトルに「レジリエンス」というキーワードが出ています。この言葉をどのようにお考えですか。

棟近 わたしはもともと品質マネジメントが専門ですが「レジリエンス」ということばは、いろいろな方がいろいろな使い方をしています。

わたしたちの専門の世界で「品質がいい」ということは、要求に合致していることです。ある商品やサービスに対していろいろな要求があり、その要求に合致しているものは品質がいいということです。これは「高級である」ということではなくて、お客さん、或いはステークホルダーやインタレステッド・パーティーといった、いわゆる利害関係の人々の要求を満たしていくということです。

これを「レジリエンス」でいうと、地域が災害の脅威に対して強くなるということは、地域住民の方々みんなが持っている要求だと思いますので、その要求を満たすということをキーワードとして使いました。

―――地域のニーズに応えるのですね。

棟近 そもそもこの研究の基本方針としては、災害に強い地域をつくるということです。災害に強い地域をつくるということは、いろいろなやり方があると思います。例えば、耐震工事を一生懸命やって地震に強くなるなどということもそうです。

この研究の非常に大きな特徴は、マネジメントシステムです。仕事の仕組みとして、いざという時災害対応ができるようあらかじめきちんとつくっておきましょうということです。

マネジメントシステムというものは世の中に数多くあります。この研究の場合、災害対応として地域で対応するために、ひとつの医療機関でやらずにいろいろな組織が協力してやりましょうということが特徴になります。いろいろな組織が協力してひとつのマネジメントシステムをつくるということはあまりみられないことです。ここが研究としていちばん新しいといいますか、新規性であり、挑戦的でもあるところでしょうか。

用語解説

    レジリエンス:

    本研究では、医療の地域レジリエンスを「地震災害等の災害が発生しても、対象地域における医療事業に関係する組織・団体が通常診療業務と災害時の医療業務を継続・運用でき、しなやかに復旧できる状態・状況を常に維持し、さらに必要に応じて向上できる能力」と定義している。


東日本大震災の光景

―――この事業は、東日本大震災を契機にはじまったと聞いています。
先生はどんなきっかけで、この研究をはじめようと考えたのですか。

棟近 そもそも医療の世界で医療の質を高めるために、クオリティマネジメントシステム(以下、QMS)をどのような形にすればよいかについて、ずっと研究してきました。その研究の延長線上として、災害が来てもずっとその医療が継続できるようにということは、頭の中にありました。

その時は具体的に何か研究としての活動をやっていたわけではないのですが、わたしの頭の片隅に災害時の医療が大事で、その研究をやらなくてはということがありました。ビジネス・コンティニュイティー・プラン、事業継続計画(以下、BCP)といわれるものを、病院の中でもつくっていかなければいけないという思いがありました。

それで、そのQMSの研究をしている時、今回の研究のきっかけとなったものがふたつありました。

ひとつめのきっかけは、今回の共同研究先になる川口市立医療センターという基幹災害拠点病院とQMSの研究を始めたことです。基幹災害拠点病院というのは、県の中にひとつだけ指定される病院で、災害時に基幹病院として地域の医療に対応する病院のことです。今回、川口市立医療センターから災害対応でこれまであまりきちんとした活動を病院としてできていないのでやりたいです、という話がありました。

ふたつめのきっかけは、経済産業省のプロジェクトの存在です。BCPを継続的に改善していくマネジメントシステムであるBusiness Continuity Management System (以下、BCMS)を構築することを補助するというプロジェクトでした。それをある先生にご紹介いただいたのです。それに応募することも研究のきっかけとしてありました。

―――では、このふたつのきっかけが先生の研究の動機になったのですね。

棟近 ええ。ただ、今思い起こせば、やはりこの研究をはじめるいちばん大きなきっかけは、東日本大震災だと思っています。今、企業との共同研究をいくつかやっていますが、共同研究先が宮城県宮城郡松島町松島にあります。
その共同研究先が、非常に大きな被害に遭って、一時期生産がだめになってしまいました。わたしは震災が起きてから半年後にその研究先を訪ねて松島に行きました。その会社の方が、東松島市や石巻市を案内してくれましたが、その時は震災後まだ半年しかたっていなかったので、それはやはりショッキングな光景がありました。

写真2:東日本大震災の光景(出典:財団法人 消防科学総合センター)


東松島では全部といってもいいほど、とにかく津波で家々が流されていました。歩いていくと,家屋はなくて,門柱しか残っていないのです。わたしにとっても大変ショックな光景で、涙がでました。こういった震災の光景をみると、災害対応が実に大事なことなのか切々と感じます。先ほどこの研究をはじめるにあたってふたつのきっかけがあると言いましたが、この東日本大震災の被害を見たことが、研究をはじめるいちばんのきっかけだったのかもしれません。普段は忙しくしていて、わたしも災害のことについては意識していないものですが、改めてこの震災の光景を見て、研究をやらなくてはと奮い立ちました。未来の子どもたちのために、わたしも何かしなくてはと思いました。


用語解説

    QMS(Quality Management System):

    品質マネジメントシステム(QMS)は、QMSの国際規格であるISO9000では、「品質に関して組織を指揮し、管理するためのマネジメントシステム」と定義されています。品質のよい製品・サービスを提供するための仕組み、仕事のやり方のことです。組織的に製品・サービスを提供するには必ず必要となるマネジメントシステムです。

    BCP (Business Continuity Planning):

    事業継続マネジメントの国際規格であるISO22301では、事業継続計画(Business Continuity Plan :BCP)は「事業の中断・阻害に対応し、事業を復旧し、再開し、あらかじめ定められたレベルに回復するように組織を導く文書化した手順」と定義されています。災害や事故で被害にあっても、できるだけ事業が滞ることがないように、事前の対策を含め、被災した時の対応策を記載した計画書のことです。

    BCMS (Business Continuity Management System):

    BCPを一度策定しただけでは、それが完璧であるという保証はありません。社会の経済環境、事業環境、自然災害発生の確率等は時間とともに変化していくものであり、それに合わせてBCPを改善していく必要があります。そのためのマネジメントシステムがBCMS(Business Continuity Management System)です。


国際標準への挑戦

―――次に研究の目標を教えてください。

棟近 まず当面の目標は、研究のフィールドとなる川口市で、災害が起きても医療がきちんと継続できるようなManagement System(以下、MS)をつくり、それを地域の中で稼働させることです。これは川口市だけに通用するものではなく、他地域でも基幹災害拠点病院のような機能を持つ病院と関連組織があれば、日本全国どこでも災害対応できるMSがつくれるということを目標にしています。

こういうことを我々の専門分野である品質管理の分野では、標準化と呼びます。標準化においては、システムも汎用性の高いものをつくっていくということを心掛けることになります。特に日本は、日本全国どのコミュニティーでも、地震をはじめとした自然災害の可能性が非常に高いといえます。だから、他の地域にも、このようなシステムが広がることを目指しています。

JSTの研究プロジェクトの責任者の方からは、ゆくゆくは国際標準を考えてほしいと言われています。そこまでいくかどうかまだわかりませんが、将来的には国際標準となるようなものを目指していきたいと思います。

―――世界中で同じシステムが活用できるわけですね。

棟近 はい。実はこのマネジメントシステムは、海外の方々にも期待されています。この内容の一部を、海外の国際会議で発表したことがあります。海外の人は、日本ほど自然災害がないからこのシステムにはあまり興味がないかと思っていたのです。ところが聞いたところによると、いろいろな国で火山が心配らしいのです。実際ヨーロッパでは火山で飛行機がずっと止まりましたというようなことがあります。国際的なコミュニティーであってもこのようなMSが活用できるように、研究としてそこまで考えていく必要があると思います。

まとめますと、MSで災害に対応できるとなると、ある地域に特殊なものというよりも、非常に汎用性が高くなる可能性がでてきます。研究の仮説として、本当にいいMSをつくれば、ある程度災害に対応できるのではないかと考えていましたが、今回の研究ではその仮説を検証することも目標においています。

用語解説

    標準化:

    標準化とは「実在の問題、または起こる可能性のある問題に関して、与えられた状況において最適な程度の秩序を得ることを目的として共通に、かつ繰り返して使用するための規定を確立する活動」(ISO/IEC Guide2)です。標準を設定し、これを活用する組織的行為です。世界レベル、地域国レベル、学協会レベル、企業レベルなど様々な範囲を対象として標準化は行われる。


災害時の医療保証

―――この研究によって、わたしたちの医療や地域の暮らしはどうなりますか。

棟近 日常の、いわゆる通常医療はそれほど大幅に変わらないと思っています。しかし、地震等の災害が起きた時、ある程度の医療が保証される社会になるということです。災害時でもある程度の医療が保証されるという思いを地域住民の皆さんが持つことができれば、この地域はいいところだと感じると思います。それはありきたりの言葉ですが、安全・安心な社会を実感するということだと思います。

実は、この医療のマネジメントシステムをやる時に難しい問題がふたつあります。

ひとつめの問題として、普通の企業の場合、事業を継続するときは基本的には「今までやってきたことを早く復帰させましょう」となります。しかし、医療の場合は「今までやってきたことを早く復帰させましょう」に加えて、災害で怪我人がどんどん来ますから、ニーズがいまあるものに追加されてしまいます。

このように医療というのは、現状の復帰と新たなニーズの両方に対応しなければいけないのです。その対策としては、うまくニーズに対応するという方法もありますが、仕組みを動かすことも考えられます。このマネジメントシステムを用いて、ニーズがなるべく増えないようにするというたとえば、地域住民の皆さんも医療のお世話にならないように、災害時にも自分たちで身を守るといった対策も考えられます。

―――なるほど。

棟近 ふたつめの問題は、自分たちの身を守るということが普段意識されていないことです。QMSであれば普段から製品を作る、サービスを提供するなど、毎日やっていることとして、皆それなりに意識できているのですが、災害のMSというと、普段全く意識がない人も多いと思われます。

あれだけ津波が来るとか、南海トラフが心配だなどといっても、やはり経験したことがない人はあまりぴんと来ないと思います。普段から災害を自分の事としてどう考えてもらうか、ということも大事なことです。
わたし自身は幸か不幸か、何度か地震を経験しているのです。幼少の頃には北海道で十勝沖地震を経験しています、東日本大震災も中越地震も知っています。さらに、幸いというべきか、わたしが現在所属する大学の建物はとても揺れるビルなので、地震や災害が怖いという思いを普段から持っています(笑)。このような普段からも地震や災害が怖いという思いを、皆が持てているかどうかも災害時には重要なのです。

手遅れかもしれませんが、ちょっと変な言い方ですが、いちど東日本大震災の跡を誰もが見てくればいいのに、と思うことがあります。あの風景を見れば、さすがに自分も何かやらなければいけないとみんな考えると思うのです。私もあの光景を見て、子どもたちのために何かしなくてはと強い思いをもちました。

図1:地域初動災害医療で必要となる機能
(出典:早稲田大学創造理工学部経営システム工学科・創造理工学研究科経営デザイン専攻 棟近研究室)


棟近 自分たちの身を守るということで言えば、地震が起きたら、きちんと安全な所に身を隠すことなどの行動を誰もがすることです。このようなことを日常から自ら心掛けてもらうことが、とても大事です。普段からその地域で災害への意識を高めることも、このマネジメントシステムの中に含まれます。生活の豊かさというよりも、人が暮らすにあたって、その基本は安全・安心な社会であることを大人が教えていくことは大事なことです。


全員参加のチームづくり

―――この研究の方法を教えてください。

棟近 方法の前に、ちょっと話はそれるかもしれませんが、この前ある高校に訪問に行って、上記のようなマネジメントシステムの話をしました。そうしたらひとりの生徒が手を挙げて「先生はマネジメントシステムをいろいろやっておられるが、これからの日本の社会にはどういうマネジメントシステムが重要だと思いますか」という質問をしてきました。その時わたしは、「おお、すごい高校生がいるな」と驚きました (笑)。

わたしは、「ひとつの組織でなにかやろうとするのはできないことがたくさんあります。社会の中で大きなことをやるためには、今回の研究のような非常に多くの組織がチームを組んだシステムというものが重要になっていくでしょう」と答えました。

今回の研究では、医療を取り扱っていますが、社会の課題、すなわち交通、原子力、エネルギーなど、今後の日本社会における多くの課題も、いろいろな組織がチームを組んだシステムで対処していくことになるでしょう。エネルギーを例にとれば、何かひとつの組織が省エネや節電だけすれば大丈夫という社会ではなくなっているということです。やはり地域でみて、総合的にどのような取り組みが必要になるかという視点が重要だと思います。

そういう意味で大規模なシステムや連携というものが、社会の中でこれから非常に重要になっていくと思います。そこに、わたしの研究も貢献できればいいなと思います。

―――マクロに社会をみるのですね。

棟近 はい。大規模なシステムを構築する時に、まずいちばんの問題は複数の組織が関与してくることです。今までやってきたマネジメントシステムは、企業であればトップに社長が、病院であれば院長がいます。その組織の中にいろいろな人はいますが、基本的にはそのトップの方針のもとに動きますし、組織内の文化ややるべき業務はそんなにばらつくことはありません。ある目標に向かって全員でやることになります。

しかし、今回の研究では、組織の目標も、考え方も、文化も、やろうとしていることも、ばらばらかもしれないという難しさがあります。そのようなチームを組んだ時に、本当にマネジメントシステムというものが機能するのかということを、今回の研究では検証することになります。

マネジメントシステムというのは、指揮命令系統が合理的に構築されているとか、メンバー内のコミュニケーションがきちんと取れているかが重要になります。いろいろなメンバーがいるところで、あるひとつの目標に向かって全員で災害に立ち向かうことをどう実現していくか、ということがおそらくこの研究では最も難しいことだと思います。

わたしとしてはそのような難しい課題に対し、いちばん大事なことは、ビジョンなり、目的、目標をチームメンバーに理解、共有してもらうことだと考えています。東日本大震災のような大きな災害時に、地域住民の皆さんが安全・安心を維持できるだろうと思えるようなビジョンを示し、それを共有してもらうことが重要だと思います。

もうひとつ大事なことがあります。チームでコミュニケーションを密に取ることです。コミュニケーションでいえば、現在は協議会と称する地域の組織をつくっていますが、この協議会は、地域住民の方々に研究で取り組んでいることをお伝えして、理解してもらう役割を担っています。この協議会は重要です。マネジメントシステムというのは科学的なものですが、組織というのは人間がつくるものですから、この研究では人間的な側面も重要になってくるからです。

―――マネジメントシステムという共通言語の共有ですね。

棟近 そうです。実は、ある企業でマネジメントシステムを実施するという時も同じなのです。本当は組織の中のひとりひとりをみれば、企業であっても皆ばらばらなわけです。皆ばらばらなのですが、共通言語や共通のビジョンの中で何かやっていくぞとなると、やはり組織の力としては強くなります。

わたしが専門としているTotal Quality Management、総合的な品質管理というものがあります。その中で作られた格言がいろいろあるのですが、「全員参加」というのがあります。これには、いろいろな意味があり、一見すると運動会のように聞こえるかもしれません。しかし、「全員参加」ができる組織というのは、実は非常に強い組織なのです。全員参加の組織になっていくための工夫についても、研究として考えていかなければと思います。

―――なるほど。

人を育てることの意義

―――では、次に棟近先生について教えてください。

―――先生はなぜ研究者になったのですか。

棟近 実はあまり覚えていません(笑)。はっきりしないのですが、学部を卒業する時は、実は就職を考えていました。ところが卒業論文を研究室でやっていた時に、研究って面白いなあと思うようになったのです。では学部で卒業するよりせっかくだから大学院にいってみようと思いました。それが研究者になろうとしたはじめの一歩です。修士課程にいってからは、さらに研究って面白いなあと感じるようになりました。

当時、品質管理の研究というのは非常に全盛期の時代でした。わたしの師匠でいえば、いろいろな企業にでかけていって指導のようなことをやっていました。だからわたしも、幸運にもいろいろな企業の話を聞くことができました。しかし、どの企業がいいかというときになって、ひとつの企業に絞れませんでした。むしろ、いろいろな企業を知るほうが、ひとつの企業に入るより面白いと感じたのです。

最終的に大学院の博士課程に進学したきっかけは、これは面白い世界だと思ったことですね。このように品質管理という研究は、いろいろな分野や組織がみられるというメリットがあります。博士課程にいっても、学術の世界ではいろいろな企業をみている人はそうそういないだろうと思いました。そしてそれは自分の強みになるし、学術の世界では稀な存在になるだろうと思いました。それで、大学の教員になって、研究者になろうと思いました。わたしの場合、このように研究者になるターニングポイントみたいなものは特になくて、徐々に研究者になろうという思いが強くなっていった感じですね。

―――先生にとって、研究とは何ですか。

棟近 わたしの考える研究とは、学生を教育するための手段のひとつです。わたしの研究分野はある程度の社会貢献はできますが、ノーベル賞をもらえるような研究分野ではありません。しかし、わたしは研究とは人を育てることだと考えます。学生を教育するための手段のひとつとして、やはり研究がないとだめだと最近実感しているところです。

授業を受けて知識として学んだものを、社会に出たときに使うというのは大事だと思います。しかし、やはり世の中は、知識だけでは通用しないですよね。本を読んで勉強すれば、すぐ社会に通用することが身につくか、というとやはり違うと思います。

大学や大学院で、研究によって未知の問題の解決に挑むことを経験した人間は、社会の中でも通用するスキルを身につけていくのではないかと最近感じています。いわゆる問題解決のようなことをきちんとできるということは、社会に出た時にとても大事ですよね。そのようなことを学ぶ機会が、わたしは研究だと思っています。

―――人を育てるというのは、重要な仕事ですね。

棟近 わたしは大学の教員をやっていますが、別に子どもからの夢でもありませんでした。若いころはなんとなく部活の先生をやりたいと考えていました。部活動としてその部活を強い部に育て、いろいろな大会に出場して優勝するというような部をつくりたいと思っていました。そのような指導というか、若い人を育てるようなことを漠然とやりたいと思っていました。

実は大学の教員になった頃は、このように人を育てるという思いは全然ありませんでした(笑)。しかし最近のいちばんの楽しみは、学生が成長するということです。わたしはこれを「化ける」というのですが、学生の中でも「化ける」者がいるのですよ。「化ける」ってどういうことかというと、大学の学部から大学院に進学してきて「あれっ、こいつ、すごい成長したな」とハッとさせられる時があります。学生のそういう成長した姿を見られるときは何ともいえない幸せを感じます。教員冥利につきるというか、大学の教員になってよかったとつくづく思うのです。

棟近 「化ける」って、なかなか説明が難しいのですが、例えば、コミュニケーションひとつ取っても、今まではいかにも学生の応対だと思っていたものが、急に社会人のように立派な応対ができるようになったというようなことです。プレゼンテーションでいえば、急に分かりやすいとてもいい発表ができたりなどです。研究室でも、何げない発言ですが「おっ、立派に成長したな」というひとことを発するような時があります。簡単には説明しにくいものですが、そんな感じです。

―――趣味はありますか。

棟近 わたしはもともと運動が大好きでして、学生時代に、「パチンコの玉からバスケットボールまで」と言われていました(笑) 。いちばん長くやっていたのはテニスですが、球技であればだいたい何でも上手いと思います。

でも最近よくないことなんですが、昔のイメージで動くという欠点がありまして。(笑) 年に2回ずつ、研究室の学生を連れてゼミ合宿に行くと、もちろん研究の話もたくさんするのですが、午後は全部スポーツをやります。合宿では、わたしはいまだピッチャーをやります。55歳ですがまだまだ投げられますよ。まあ最近、ゼミ合宿に行って運動して帰ってくると、1週間ぐらいは身体が動きませんけど(笑) 。

研究を成しとげることでいえば、これはインタビューのまとめになりますが、この研究で未来の子どもたちのために安心安全な社会をつくっていかなければと思っています。
子どもたちが安心して暮らせる社会の実現に貢献できるよう、今後とも研究を頑張っていきたいですね。

―――今後の抱負を教えてください。

棟近  当面の目標は、この「医療の地域レジリエンス・マネジメントシステム」の研究を成し遂げることですね。
さらに言えば、研究費を獲得しなくてはという思いもあります。これまでそれほど費用のかかる研究はやってこなかったので、研究費についてあまり深く考えたことはありませんでした。最近になってある程度まとまった研究費が取れるということは、研究の内容もやはり評価していただいているのだと思うようになりました。
また、ある程度まとまった研究費を獲得すると、学生なり、ポスドクの人なりに、もっと多くの研究の機会、成長の機会が与えられるということを最近実感するようになりました。

―――本日は貴重なお話を頂き、ありがとうございました。


2015年1月20日 早稲田リーガロイヤルホテルにて

Copyright ADRMS-H, All rights reserved.